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第16話
2026-02-02
注目重要
暮らしネット・えんもかかわっている団体「ケア社会をつくる会」は1月19日付で、10の政党の政策責任者あてに公開質問状を出し、その結果を30日にホームページで公開しました。回答したのは自民党、中道改革連合、れいわ新選組、共産党、社民党でした。「介護保険よもやま話」では第15話で、主要7政党の介護に関係する政策を一覧表にして比べてみました。「介護を争点に」衆院選で投票していただきたいからです。続く第16話では、「ケア社会をつくる会」の公開質問状への答えを抜粋しました。介護を争点にどの政党に投票したらよいかの参考なればと思います。
質問は11項目。上記に抜粋した質問は、昨年末の社会保障審議会介護保険部会で大きな論点となった、介護サービス利用料の2割負担拡大の是非と、介護保険財政にさらなる公費投入をすべきかどうかの2点です。
利用料は原則1割負担ですが、年金などの収入や預貯金額で線を引いて2割負担の人を増やす案が議論されました。結論は持ち越しになり今年中に決めることに。仮に2倍になったら、この物価高で従来のサービス受給を減らすなど利用控えが心配です。必要な介護を受けられないことで、心身の状態が悪化する危険性があります。利用抑制や負担増は高齢化による財政ひっ迫が理由とされていますが、既に利用者の負担は限界状態。公費と保険料が半々である原則を少し変え、公費増額を図るべきだという意見は、審議会でも複数出ています。この2問に限っても、あいまいな姿勢を示す政党と、明確に数値を出して答えた政党の差が出ています。
このほかの質問項目では、ケアプランの有料化問題、要介護1と2の人の生活援助を市町村による総合事業に移す問題、高齢者施設の人員配置緩和、前回改定で下げられた訪問介護の基本報酬を次期改定を待たずに元に戻すかどうかなどについて5党の回答が並んでいます。似通った回答もありますが、じっくり読むと介護保険に対するそれぞれの姿勢が見えてきます。
利用制限が進むばかりの介護保険。既に全国で崩壊が始まっている介護現場をどう支えるのか。現場の状況をよく見て制度を変える役割を担う政治はとても重要です。高額療養費などの扱いもそうでしたが、最後は「政治決着」となることも多いのです。だから、どの政党が政権を取るかを決める総選挙は重要です。「どうせ変わらない」と棄権してしまうのは、前回も書きましたが「何をされても仕方がない」という意思表明になります。
第15話
2026-01-31
チェック重要
2月8日の投開票日に向けて、超短期決戦の衆議院議員選挙が公示されました。物価高対策などを盛り込んだ新年度予算案の早期成立を投げ打って、解散に踏み切った高市早苗首相。自民党の支持率が高いうちに勢力を拡大しようとする解散は「自分勝手解散」と揶揄されていますが、基本はどの政党による政権がよいのかを問う政権選択をする総選挙です。経済対策、外国人問題、安全保障など主要メディアは争点を提示していますが、「よもやま話」では、介護を最大の争点として皆さんに投票に行っていただきたいと願い、主要7党の介護関連政策を抜粋してみました。それが上の表です。
政権与党の自民党は、おおむね厚生労働省が進める介護政策に沿っていますが、有料化が議論されているケアプランについて「介護保険制度で全額を賄う現行制度を堅持」と打ち出したのが目を引きます。有料化で利用控えが起きるのを懸念したのでしょうか。今後の社会保障審議会の議論に一石を投じたとも言えそうです。
連立の枠組みが変わったことで、選挙直前に立憲民主党と公明党によって結成された新党「中道改革連合」。介護については記述が少なく肩透かし感も。日本維新の会は「医療・介護提供体制」の一部として介護施策に触れていますが、具体性に欠ける感じもします。国民民主党も医療と同じ項目に介護が入っていますが、訪問介護の基本報酬引き上げを明記しています。
日本共産党は「介護制度の危機が進行している」と介護だけの項目を立て、給付の充実と利用者負担軽減を具体的に書いたのが特徴でしょうか。れいわ新選組は「健康保険・介護保険」をセットにして国民負担割合の数値を明記しています。参政党は介護関係では報酬アップに触れているにとどまっています。
上記の表に示した7党の記述の出典は次の通りです
自民=「総合政策集2026 J-ファイル」
中道改革連合=「2026衆院選主要政策」
日本維新の会=「維新八策2026 個別政策集」
国民民主党=「政策パンフレット2026」
日本共産党=「2026年衆議院選挙各分野政策」
れいわ新選組=「基本政策」
参政党=「政策カタログ」
7党を取り上げた基準は表に示しました。このほかにも、社民党やチームみらいなども候補者を擁立しています。できれば全文を読んでじっくり比較し、どの政党がよいかを決め、ぜひ投票所にお出かけください。「どれを選んでも同じ」「結局自民が勝つんでしょ」と棄権することは、選挙結果を白紙委任することと同じ。何が起きても文句は言えません。
第14話
2026-01-27
注目重要
誰が委託を受けるのか
主に離島や山村の「中山間・人口減少地域」で訪問介護事業などを確保するため、社会保障審議会介護保険部会が昨年末に示した方策の話の続きです。前回第13話では、事業者が出来高払いに加え「包括報酬」(月単位の定額報酬)も選べる新たな方法と問題点を紹介しました。実はもう一つ、厚生労働省は市町村が介護給付に代わる「事業」として、事業者に委託費を支払う「地域支援事業の新類型」を作る案も示しました。
対象となるのは訪問介護、通所介護、ショートステイなどで、事業費の財源構成は介護保険と同じとのこと。同省は、事業者が近隣自治体に出張したり通常の訪問圏域を越えてサービスを提供する例などを挙げています。しかし、介護保険によるサービス給付ではなく、保険者である市町村が自ら委託して事業運営をする方式は、自治体間格差を広げる懸念があるだけでなく、制度の根本を揺るがす方策です。同部会でも「全国共通の保険制度で、一部の地域で公定価格ではない基準でサービスを提供するとなると、利用者や保険料を負担している方々にとって納得感が得づらい」との意見が出ました。同省は、ヘルパーが圏域を越えて移動する経費などを踏まえ「追加的費用を勘案する」としていますが、保険財政の膨張を防ぐため、事業費に上限額が設定されるとのこと。上限額に触れて委託に必要な追加的経費を賄えない可能性すらあります。
過疎地域では高齢者宅が広く点在し、収益性が低いのが現実。おまけに深刻な介護人材不足で事業ができず、撤退が続出しているのです。そもそも、採算のとりづらい地域で委託を受けてくれる事業者を確保することができるのでしょうか。新類型で救いの手を差し伸べる役割を担う周辺部の事業者ですら、採算が取れずに撤退する可能性を否定できません。「保険料を支払ってきたのに使えない介護保険」は、ますます色濃くなるばかりです。
同部会では「実施主体を事業者から市町村にスライドさせても課題解決にはならない。収益が見込めるだけの委託費を市町村が賄えるのか。サービス提供コストはさらに膨らむ」「移動経費など従来の報酬体系では評価されなかった上乗せ分として委託に必要な費用を、自治体によっては賄えないことも考えられ、現実的に実施できない」などと、疑問視する声が続出。委託に難色を示す事業者も多いと指摘し、「委託さえ厳しい。事業者が見つからないなら市町村が直接実施することも考えて」と言う委員さえいました。「移動時間などにかかるコストや人材確保可能な賃金水準等も考慮した上で、報酬の在り方を見直すことが重要」との指摘もありました。
今のところ離島や山村に限っての方策ですが、人口減少や介護人材不足は都市部でも共通の問題。採算が取れず撤退する訪問介護事業者は東京でも珍しくありません。今回議論されている方策は近い将来のわが町の話でもあると、心しておく必要があります。
第13話
2026-01-18
注目重要
包括報酬で利用者選別?
「中山間・人口減少地域においては、利用者の事情による突然のキャンセルや利用者宅間の移動に係る負担が大きく(中略)、年間を通じた安定的な経営が難しく、サービス基盤の維持に当たっての課題となっている」
昨年末に社会保障審議会介護保険部会がまとめた「介護保険制度の見直しに関する意見」には、こう書かれています。過疎地域の記述ではありますが、訪問介護ヘルパーの移動時間や利用者側の突然のキャンセルに関する問題について記載した、国の文書では異例の表現です。
そもそも厚生労働省は、ヘルパーの移動や待機時間、キャンセルに対応する介護報酬を出していません。国側は「これらは介護報酬に含まれている」としていますが、移動や待機時間などの詳細な実態調査をまったく行なわずに「介護報酬に入っている」と言い続けてきた実態は、藤原るかさんら3人の女性ヘルパーが国を訴えた裁判で明らかになりました。介護保険部会の「意見」は、実態調査をしていないものの、移動やキャンセルの問題が事業所の経営を圧迫している実態を公に認めたとも言えます。ヘルパー訴訟は介護保険四半世紀の歴史で重要な出来事なので、機会を改めてご紹介するつもりです。
基本的には実際に介護を行った時間だけに報酬を出す仕組みなので、移動や待機時間に応じてヘルパーの時給を付けると事業所の経営は悪化します。中山間地に限らず全国で訪問介護事業所の倒産件数は過去最高を更新。「ようやく移動時間などの問題を認めたか」と思いましたが、「意見」に書かれた「サービス提供回数に応じた出来高報酬と、包括的な評価(月単位の定額払い)が選択可能」という対処法には首をかしげざるを得ません。
案の定、介護保険部会では「定額報酬の利用者負担が高くて利用できないなどの事態が起こることは大きな問題」「介護は長期的、継続的な支援が前提。単純な包括化では、(サービスの)質の低下や、(介護の手間がかかる)要介護度の非常に高い人々の受入れ回避のような方向性を事業者に生じさせる可能性もある」など、懸念が続出。「包括報酬の範囲内で提供する回数が制限される」として、「在宅生活の要であるヘルパー不足への対応については、基本報酬を引き上げた上で移動など各種加算の新設を」という声も出ました。
「意見」では、「利用者ごとの利用回数・時間の差にも配慮し利用者間の不公平感を抑え、費用負担の急激な増加やサービス利用に過度な制約がかからないよう、適切に配慮を行う必要がある」とも指摘。今後は介護給付費分科会等で議論することになりました。
ヘルパーの移動や突然のキャンセルが「サービス基盤維持の課題」と言うならば、移動時間やキャンセルについて事業が維持できる十分な介護報酬を付けて維持を図るのが筋でしょう。それで介護費用が増大し保険料が上昇する懸念があるなら、部会でも既に声が上がっているように、制度維持のために公費負担を増やすのが一つの方策です。
第12話
2026-01-10
注目重要
深刻化する地域格差
「介護保険は全国的な制度として実施するわけですから、地域によって利用できるサービスに大きな差が出ないよう、国としても(中略)積極的に支援していくことにしています」
これは、介護保険制度発足当時に厚生省老人保健福祉局が監修して作った市民向けパンフレットに書かれている文章。Q&A形式で「保険料を払えば、地域で必要なサービスが受けられるのでしょうか」という質問に対する答えで出てきます。
国の制度だから、全国どこにいても同様なサービスが受けられると思いがちですが、介護保険の実施主体(保険者)は区市町村。自治体の置かれた地域や、予算や熱意によっても差が出る仕組みです。介護報酬を見ても、20%上乗せとなる1級地の東京23区から8段階に詳しく分かれています。ちなみに埼玉県新座市は10%上乗せの5級地。同じサービスを提供しても介護報酬に差があるので、近隣に1級地がある都県境の新座市での事業所開設は得策ではないということになります。
当時は「よりよいサービスを目指して地方自治を競い合うことができる」と長所を指摘する人もいました。しかし、図らずもこのパンフレットで国が認めているように、事業者が少ない離島や山村は都市部に比べて当初から不利でした。この点について「農協や民間の非営利団体、市町村が運営する診療所を中心としたサービスなど、地域の実情に応じた工夫が期待されます」と書かれています。「地域の皆さん、自分たちで頑張ってね」と言わんばかりで、事業者確保で国から特段の財政支援があるわけではありません。保険料を納めても地域によってサービスが十分に受けられない実態は、当初からありました。
昨年末に社会保障審議会介護保険部会がまとめた「介護保険制度の見直しについての意見」では、地域を「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」の3つに分類。このうち「中山間・人口減少地域」は、高齢者人口が減りサービス需要が減少する地域と定義し、必要なサービス維持のため人員配置基準を緩和したり、サービス提供に応じた出来高払いのほかに包括的な報酬(月単位の定額払い)も選択できるようになりました。包括的報酬は2027年度にも実施される見通しです。
しかし、介護保険部会では「どの地域であっても、必要なサービスを同じ水準で提供し、受けられることが確保されなければならない」とする声や、基準の緩和でサービスの質確保に疑念の声が出たほか、包括的報酬では少ないサービスで割高な利用料となる可能性も指摘されました。国が言う「全国的な制度」の地域格差は深刻化し、人口減少や介護職員不足への対処とはいえ、制度は足元から大きく揺らいでいるのです。
2023年推計の「日本の地域別将来推計人口」によると、介護が必要になる可能性が高まる75歳以上人口は、2030年まですべての都道府県で増加するとのこと。それなのに、人員配置基準の緩和を進めてよいものかと不安になります。人口減少で介護を支える人材が減るのが現実なのかもしれませんが、これまで維持されてきたサービス水準を低下させる事態に、介護保険料を支払ってきた私たちは耐えなければならないのでしょうか。














